「シャバの空気」


重い扉が開かれる

白い雲が流れる
青空がひろがる
鳥が鳴き

擦れ違う人々は微笑みに溢れている


塀の中

白い雲、青い空、鳥の鳴き声

全てを無視していた
必要がなかった

笑み・・・そんなものはなかった


街中

1人で意味なくさまよう

やることなどない


長かった・・・3年・・・3年たっている


浦島太郎だな・・・まるで


知っている町まで、少ない懐でなんとか辿りつく

駅前はその姿を所々少なからず変えている



大きく深呼吸をする


また、この街に戻ってきた。



なにをするわけでもなく、まずはあいつの家にいこう

まっていてくれるといったあいつの家へ・・・



古ぼけたアパートの2階の真ん中の部屋

表札は変っていた。




当たり前か・・・3年・・・ながかったよな。

よりどころをなくした俺は


また、駅前へ戻った。


まずはやらなきゃならない。


3年前に溜めた金。

必死に汗水たらして溜めた金。

通帳から下ろして、金物屋へ向かう


俺から・・・3年を奪ったやつらがいる。


俺は、なにもしていない
ただ、一生懸命会社の為につくしてきた。


それが、なんだかわからないうちに「罪」と言う二文字を
付きつけられ、反論すら暴挙とされ、塀の中へ放りこまれた。


ゆるせない・・・ゆるせないんだよ。


俺をきりすて、のうのうと善人面してサラリーマンをしているあいつ等がな。


あそこまで周到にやってくれたんだ。用意してるんだろうよ・・・
俺がくるってことがわかっているからな・・・



包丁を買った。


手っ取り早いからな。


まずは・・・銭湯だ。


ひげをそり、体をあらう。
こんなにゆったりと風呂にはいったのは、まさしく3年ぶりだ。


次はメシを食おう


いきつけだった定食屋は、看板娘が変っていた。
ついでにいうと、店の親父も違えば、味も悲しいほど落ちていた。


腹を取り合えずみたして・・・俺は服をかいにいった。


もう1度、あの塀の中へ戻る。

そのまえに、この空気を思いっきりすっておこう。


一時の自由を・・・



ポロシャツにジーパン、ジージャン。

懐にはさっきかった刺身包丁をたずさえる。


会社までいく。


もうすぐ、5時半だ。

あいつら今日も変らずへらへらとした表情で出てきやがった。


しっかし・・・なんだあのガードマンは、
俺が来る事、わかってるみてぇじゃねぇか、

それは・・・自分のやったことがわかってるからだな?


俺の・・・3年・・・返してもらうか・・・


俺は・・・歩き出した、あいつが車に乗る瞬間に合わせて足を速める。


懐に手をいれ、汗ばんだ手で、ぎゅっと包丁の柄を握る。


落ち着け・・・1発だ。腰に構えて、体からぶつかるように・・・
胸にさしこめば・・・俺の屈辱を!!!




「ぜったいに・・・・」



無意識に呟いた・・・


絶対に・・・ゆるさない・・・




俺が狙いを定めて走り出した瞬間だった。


俺の前に、小さな体がぶつかってきた。

目に涙を一杯ためて・・・



「お・・・おまえ・・・・」

その子の髪の香りを俺は忘れていた

俺を止めるように抱きついている
振るえるその体を俺は両腕でしっかりと抱きしめる


「まってたから・・・私・・・まってから・・・だから・・・」

俺は、なにかもう全てがどうでもよくなった。
それよりも、こいつを、こいつを抱きしめつづけたかった


「ごめん・・・ごめんな。俺・・・・」

「いいよ・・・もういい・・・・お願いだから、もう私から離れないで・・・・」

憎らしいあいつらのことなんてもう頭に無かった。


ただ・・・俺はこれから

失った3年の中で、ただ一つ失わなかったものを守る為に、
生きることを決めた





それから・・・



いま、俺は小さな定食屋でバイトしている。

なんか滑稽とも思えるが
あの時買った刺身包丁は、無駄にはならかった・・・


また・・・俺は掴めた・・・


未来ってやつを・・・




仕事は終わり、道をあるく

この道の先の小さなアパートの狭い部屋の一室で、
今日もあいつはまっていてくれる。


それでよかった。



俺は両手を広げ、沈みゆく太陽を見つめながら空気をめいいっぱい吸いこんだ


シャバの空気は上手い・・・その気持ちはよくわかる。


なぜなら、好きなものを食える
なぜなら、どこにでもいける
なぜなら、風呂に何時間でも入っていられる
なぜなら、労働に対して賃金が払われる
なぜなら・・・・


なぜなら、大切なヤツを思いっきりだきしめられるから



もう・・・この場所を離れるわけには行かない


あの場所へは・・・帰らない



なぜなら・・・・そこには未来があるのだから・・・


                                END



こちらは水城さんとの相互リンク記念にいただきました!
シャバの空気というリクエストに答えて書いてくださったのですよ〜。
素晴らしい言葉達に思わず見愡れてしまいますね!
水城さん、お忙しい中本当にありがとうございました!!

水城さんのページにはこちらから
言葉の杜
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