神と天使と




暗い暗い丸天井には 偽物の星達。
大きな大きな丸天井 溢れそうな星達。

その下に 小さなクレーターの様に広がる穴。
中心には シャボン玉の様な球体が浮いている。
だが 薄い青が張って 中が見えそうに無い。
その球体は とても大きい球体で 中に人が入れそうなほど。
それも 一人ではなく 何人も。

天井とは 真逆の白。
それを踏みしめながら ゆっくりと歩いて行く青年。
髪の色は黒く 眼の色は茶色。
極東の島国の民族を思わせる青年は 球体の前で立ち止まる。
球体を睨みつけて 吐き出すように云う。


「アズマ=ヒガシノ [イースタン] 只今 戻りました」


球体が揺れる。
裂ける様に開いた中には 少年
無垢な笑顔を浮かべ 少年が 頬杖をつき アズマを見下ろしている。


「おかえり アズマ」


髪の色は白 灰色 銀色に 鈍く光る。
眼の色は 血の様に 夕焼けの様に 紅い。
裂けた球体に ソファのように腰掛け にっ と手を挙げて笑う。
それを嫌そうに見るアズマ。


「んな嫌そうな顔しなくたって良いじゃん」
「無理だと思いますが」


即答だった。


「…ま 良ーや。俺って嫌われてるからな お前に」
「ええ そうですね」
「………。拗ねるぞ 俺拗ねるぞ」


ぷくぅっ と頬を膨らまし そっぽ向く少年。
そんな少年の仕草を見て 可愛い と思っても
気持ち悪い と思う者は居ないだろう。
だが アズマは違った。

こんな所には 一秒たりとも居たくない
こんな奴には 一秒たりとも付き合ってられない

じりじりと後退するアズマ。
用事を済ませて さっさと帰ろう。
アズマをこの様な気にさせるのは 少年の 真の姿を知っているから。
だから アズマは少年が嫌いだった。


「さっさと終らせて さっさと帰りたいのですが」
「ん ああ ゴメン。 で 話なんだけどさ」


身体を前に起こし あぐらをかいた姿勢で話し始める少年。
身体を前に起こした瞬間に 一歩後退してしまった アズマ。


「新しい仕事 頼むよ」
「…詳細は」
「んなに固くならなくって良いって」
「くっだらないお遊びなら 私はやりませんが」
「けっけけ そのくっだらないお遊びだよ だけど アズマには決定権は皆無だかんな」


嫌そうに唇を噛んだアズマ。
こいつの持ってくるものはくだらないものが多い。
他人の心を遠まわしに操り こちら側の思うように誘導する。
弱みを握り 知られたくない過去を知り。
このような仕事に アズマは嫌気を感じていた。
しかも 相手はこいつときた。
分が悪すぎる。


「……………そう ですね」
「おう 判りゃあ良いのよっ」
「私は 貴方の前では 無力な存在」
「うんうん」
「そう [神] の前では。
 まあ この様なくだらない[神]ならば 存在していても意味が無いように思いますが」
「ぶっはは 判ってるなー お前っ」


[神]。
この少年は [神]。
この世界の [神]。


「私はずっと間違っていました。 [神]という存在は全知全能
 貧しい物には手を差し伸べる その様なのだと思っていました」
「んで?」
「私は 間違っていました」


顔を上げるアズマ。 その顔には 嫌悪の色。
対する少年 [神]と呼ばれた少年は 興味津々の様子。

暗い丸天井に 鈍く光る偽物の星。
対照的に白い床には 鏡の上に立っているかのように
逆さに彼等の影が映る。


「…[神]とは こんなにも残酷で 醜い物なのだと」
「へ え。 なるほど」


くくっ と笑う [神]。
一度後ろに倒れて笑うが 両手で上半身を支えるように
また 戻ってくる。


「貴方のやり方には吐き気がします。 何故 私はこの道を選んだのでしょう」
「仕方ねーだろ。 手に入れる為に捨てるんだ」


真面目な顔に戻って続ける [神]。
声も眼も 冗談を許さない響きを秘めている。



[神]が続ける。


「お前だってそうだろ。 俺等みてーになるってー権利を手に入れる為に
 友達も 好きだった奴も 捨てただろ それと同じさ」


苦い顔をするアズマ。


「俺等も同じだ。 大げさに云うと 命」
「…命?」
「そ 命。 俺が気に入った奴の命を救えるか って事は 手に入れるかって事で
 そいつの命を救うため 手に入れる為に 敵になる命を捨てる 例え どれだけの命が失われようと」


どこか寂しげに語る[神]は 紅い眼を揺らしてアズマを見据える。
顔を上げ きちっ と睨み返すアズマ。
だが 喉まで出てくる単語は 言葉にはならず。
ただ 時間が流れる。

[神]が告げる。


「手に入れる為に 捨てるんだ」


ゆっくりと 云い聞かせる様に。
ただ 時間が流れる。


「だけど 貴方のやり方は 酷すぎる」


何度か口を開閉させ それから か細く
そして 確実に単語を並べるアズマ。
ただ 時間が流れる。


「そうかい。 …けけっ お前はよぉ 優しすぎんだ。
 だからいつまで経っても慣れねーのさ。 そうだな あんたには 向いてないのかもしれないな」


さっぱりとした笑顔で告げる[神]。
再び俯いた黒髪が揺れる。


「…。 [イースタン]」
「…………は」


仕事での名で呼ばれ 顔を上げるアズマ。


「仕事だ。 お前も知ってるだろうけど
 [ルーン]の人間を使って 幾つもの人体実験を繰り返してる組織」
「…。 [ボルバンガー] ですか?」
「ああ [邪悪の源] な。 あいつら自身は [マグ・メル] と呼んでいるが
 意味が正反対だな。 [ボルバンガー] と」


何かを思い出す様に眼を上げる。
口元に手を持っていって考える [神]。
微妙な間。
そして 手を元に戻して 云う。


「あー [幸せ土地] だったか そんな意味だ。 何を指してんだか
 やってることを考えると やれやれ だな」
「はあ」
「で そいつらをぶっ飛ばして欲しい」


嫌だろうケド そう付け足して [神]は口を閉じた。
アズマは 何も云わない。
ただ 沈黙を守ってるだけ。


「方法は 何でも良い。 だが 彼女に 仇をとらせたいんだ」
「…彼女?」
「ああ 俺の気にっている人間の内の一人だった奴 そいつの妹だ」


左手を 一振り。
そこに浮かび出たのは 黒髪の少女が 二人。
一人は 二つに分けたおさげ。
もう一人は 髪を高く結い上げている。
ともに 紅い眼。


「こっちの子 おさげの子が殺された。 彼女は オキの親友だった」


語る[神]は どこか懐かしげな表情。
アズマは知っていた。
[神]にとって [ルーン]の人間程 愛しい人種はない。
それに ときどき降りていくことも。


「オキの兄も気に入っていたが オキも俺が一番気に入ってる奴の一人だ。
 何でって [ルーン]一の踊り子になる奴だし ちょっと辛い思いをさせたからな。
 だから コイツに仇をうたせてやりたい。」


そんなんで 罪の贖いが出来るとは思わないが。
呟いた声は アズマには聞こえなかったようだ。
不信な眼つきで アズマがぼそりと呟く。


「…。 一人だけ特別扱いするのは [神]として どうかと思いますが」
「良いんだ 良いんだ そんな事気にするなっ」


なんてわがままな[神]だ。
アズマは軽く溜息をついた。
何時の間にか さっきまで感じていた苦いものは消えている。
そのことに気付かずに 話進める。


「それだけ かな。 後は あんたに任せる。 使いたい奴はいくら使っても良い。
 俺が許した って伝えとくから」
「はい」


[神]の表情が改まった。


「それでは 行け [イースタン]。 我等[神]の僕 [天使/ウォッチャー]よ」


一礼するアズマ。
ふっ と 彼の影が揺れたかと思うと
瞬き一瞬 彼は元から居なかったように 掻き消えていた。
完全に居なくなったことを感じとり ぽつりぽつり と呟く[神]。


「それが 俺等のやり方さ。
 勝利を手に入れる為には いくらでも 要らない命を捨てるんだ。
 欲しいもんを手に入れる為に いくらでも 嘘をつくんだ。
 お前にゃあ 辛いこったろうな。 要らなくたって 家族が居て 友達が居て
 哀しむ奴が居るって 知ってるからな。
 正直な奴だし」


ふう と 溜息をついて左手を振る。
今まで浮いていたその画像が掻き消える。
浮かない顔で しばらく球体に腰掛けていたが
うーん と後ろに倒れると同時に 球体が閉じる。

何事もなかったかのように 静まり返る部屋。
暗い暗い丸天井には 偽物の星達。
大きな大きな丸天井 溢れそうな星達。

その下に 小さなクレーターの様に広がる穴。
中心には シャボン玉の様な球体が浮いている。
だが 薄い青が張って 中が見えそうに無い。


[神]は 何を思っているのだろう。
[イースタン]は 何を思っているのだろう。

彼等の仕事は 産み落とされた罪の贖い。
これからも これかも ずっと ずっと。







黒髪さんに無理矢理リクエストして書いてもらったのですが、もう大満足でございましたvv
もともと組織スキーなところに設定スキーなものですから、もうツボつきまくりすわ〜♪
くっそ〜、アズマさん大好きだぁぁぁ!!!(何)
とまあ、壊れるくらい好きです♪
黒髪さん、ありがとうございました!!m(__)m


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雪色カラス




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